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京都地方裁判所 昭和51年(わ)266号 判決 1976年11月15日

主文

被告人を懲役一年に処する。

この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

押収してある入会保証金預託証書一通(昭和五一年押第二五九号の二〇)を没収し、被告人から金一三二万円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四三年一一月一日より城陽市(昭和四七年五月二日以前は京都府久世郡城陽町)嘱託員として勤務し、同市総務部総務課管財係に所属して同係所管の建築に関する職務のうち建築物設計図面の点検および建築工事の監督、指導並びに検査の補助等の職務を担当していた者であるが、昭和四六年以降同市発注の建設工事を請負施行した大信建設株式会社(本社、宇治市広野町東裏一〇九番地の一)代表取締役吉岡秋男から、右会社の請負施行にかかる同市発注工事の監督、検査等の職務に関し、同社が好意的な取扱いを受けたことに対する謝礼および今後も職務上便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、同人において昭和四八年六月七日ころ、大津カントリークラブ会員久米久夫に対して金一七〇万円を支払つて、同クラブ入会保証金預託証(昭和五一年押第二五九号の二〇)および会員証(同号の一八)等を譲り受け、更に同月九日ころ大阪市東区京橋三丁目一番地の四株式会社大和に対して名義書替料として金三〇万円を交付し、もつて右吉岡の出捐により同年七月三日右株式会社大和において右カントリークラブの個人会員として登録を受け、その後同月上旬ころ、宇治市大久保町大竹四九番地大久保ゴルフシヨツプ藤村忠道方において、同人を通じて右株式会社大和発行且つ同社代表取締役の譲渡承認印のある入会保証金預託証書一通(額面金額六八万円、同号の二〇)を受領して、もつて自己の職務に関し賄賂を収受したものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法一九七条一項前段に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予することとし、なお判示収賄罪にかかる賄賂の性質について鑑みるに、被告人において賄賂として収受したものは、前掲各証拠によれば、前記株式会社大和発行の、単なる紙片としての入会保証金預託証書に留らず、同会社の所有し株式会社日本平の経営する大津カントリークラブの施設を優先的且つ継続的に利用し得る権利および年会費等を納入すべき義務をも包含するところのクラブ会員としての地位であるといわなければならない。ところで、没収、追徴の制度の趣旨は、授受された賄賂の目的物またはその価額を常に国庫に帰属せしめて収賄者をして犯罪による不法な利益を保有し、または回復することを妨げることを目的とするものであること明らかである。いま、被告人の収受した右預託証書が、会員たる地位を包摂して化体し、したがつて同証書の没収をもつて、会員権に効力を及ぼしうるものであれば、同証書を没収すれば、収賄者の得た利益をすべて奪うに等しいこととなるから、右法理に叶うものである。しかし、前掲各証拠によれば、成程預託証書ないし会員権の売買は自由であつて、会員権の移転には通常必らず同証書の占有の移転を伴うものであり、また入会保証金返還請求権を行使するには、同証書が必要であることは認め得るが、一方右会員権は、会員たるべき者が、株式会社大和に対して入会申込書および会員権譲渡承認請求書等を提出して入会を申込み、同理事会の承認を経たうえ、同理事会に対して前会員所有の預託証書、会員証および名義書替料を交付することによつて同クラブに登録されてはじめて取得され、すなわち会員たる地位を譲り受けられるものであり、また原則として同クラブの登録を受けてはじめて施設を利用しうるものである。右によれば同証書は預託金返還請求権および会員資格を表彰するものではあるが、その流通性は制限され、しかも未だ会員たる地位を包摂するものではないから、同証書をもつて会員たる地位をすべて化体するものということはできない。

ところで法は、できる限り、賄賂として収受したもの自体を没収すべきことを予想しているから、被告人の収受した賄賂すなわちクラブ会員たる地位のうち、預託証書はその流通性に制限されているとはいえ少くとも会員権の一部としての保証金返還請求権を化体するものであるから、したがつて、収賄者にその保有を許すべきものでないので、同法一九七条の五前段により同証書一通(昭和五一年押第二五九号の二〇)はこれを没収することとし、その余の会員たる地位はその性質上没収することができないから、同条後段によりその価額を追徴しなければならないが、その価額は、収受時の会員権の譲渡価額から右証書額面金額を控除した金一三二万円をもつて相当とする。

よつて主文のとおり判決する。

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